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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/07/10

積石塚は盗掘され易い


南シベリアのトゥヴァには巨大な積石塚の古墳がある。

アルジャン古墳1号墳 前822-791年 積石木槨墳 墳丘直径110m(造営当初) 
『スキタイと匈奴』は、側面は切り立っていたと思われる。古墳は盛り土がない純粋の積石塚で、扁平なホットケーキのような形をしていたらしい。積石の下にあった丸太は井桁に組まれて、中心から放射状にたくさんの仕切りを形成していた。中央の大きな木槨墓室=外槨(8X8m)の中には、さらに小さな木槨=内槨(4X4m)があり、その中に2つの木棺があった。木棺は丸太をくりぬいて作られていた。
馬は160頭にもなり、すべて銜(はみ)などの馬具を装着していた。
私は中国の天山山中でモンゴル人遊牧民が丸太を井桁に組み上げていくつかの仕切りを作り、冬営地の家畜小屋にしている例を見たことがある。アルジャン古墳のたくさんの丸太組みも、家畜小屋を模倣したものではないだろうか。
アルジャン古墳は、かなり早い時期に盗掘の憂き目に遭い、金銀製品はまったく発見されなかったが、青銅製品はかなり多種多様なものが残されていた。
装飾品の中で特筆すべきは、体を丸めた豹をかたどった飾板である。いわゆるスキタイ動物文様の中で最も古いタイプに属する。
2004年に発表された最新の測定法による分析でも、アルジャン古墳の年代は、95.4%の確率で前822-791年の範囲内であるという。スキタイのスキタイたる所以の動物文様は、東部の方が早いと言わざるを得ない
という。ところでアルジャン古墳群には、外見が1号墳とそっくりで規模はそれを一回り小さくしたような古墳がある。それがアルジャン2号墳である。

アルジャン2号墳 積石塚 直径80m、高さ2m 前619-608年
墳丘の外周をなす石囲いの下も含めて、墳丘下のあちこちに墓坑が発見された。中心に近い10号と隣の9号墓坑には、盗掘者が上から侵入したすり鉢型の穴があったが、報告者によるとそれは盗掘のせいではなく、始めからまったく何も入れられていなかったという。盗掘者をだます偽の墓ではないかという判断である。
その策が功を奏したためか、本当の墓は荒らされることなく、ほぼ完全な状態で発見された。この古墳の主人公もいうべき男女の遺骸は西北辺に近い5号墓にあった。旧地表面から深さ3mのところに木槨の天井が現れ、墓坑の大きさは5X4.5mで、その中に二重の木槨があり、内側の槨室は2.6X2.4mであった。
墓坑と外側の木槨との間に、鍑が2点発見された。
2006年にドイツ考古学研究所から、墓室に使われたカラマツの分析結果が発表され、ほぼ前619-608年の範囲内、すなわち前7世紀末であり、アルジャン1号墳より200年ほど新しい
という。
春秋秦の雍城出土の鍑(前677-383年)とどちらが古いか微妙やなあ。1号墳は青銅製品は残されていたが、鍑は出土しなかったらしい。『シルクロード絹と黄金の道展』は、鍑は紀元前9世紀から8世紀頃に作られ初め、初期騎馬遊牧民の時代にはユーラシア草原地帯のあらゆる場所で使われるようになったという。アルジャン1号墳の築かれた前9世紀後半-8世紀初頭に、果たして鍑があったのかどうかも微妙である。 ところで、アルジャン古墳群は積石木槨墳である。1号墳はかなり早い時期に盗掘されたという。それより200年ほど後に築かれた2号墳は、盗掘者をだます偽の墓を作ったり、主室を中心にはしないなど、盗掘されることを想定して築造されている。しかし、9・10号墓坑に侵入した形跡があるので、蟻地獄のように脱出しにくい構造とは裏腹に、積石塚というものは墓泥棒に荒らされ易い墳墓だったことがわかった。 
これらの積石塚と新羅の盗掘されにくい積石木槨墳との違いは何だろうか。それは封土層の厚さではないかと思う。深く掘ったら人頭大の石がごろごろと現れて、これは財宝の詰まった古墳ではなくただの山だと墓泥棒が思ったのかも知れない。
ひょっとすると、慶州は新羅、統一新羅とずっと都であり続けたので、警備が厳重で盗み掘りすることができなかった。そしてそのうちに古墳であることが忘れられて、小山だと思われるようになったのかも。

慶州の積石木槨墳の構造についてはこちら

※参考文献
「韓国の古代遺跡1 新羅篇(慶州)」(森浩一監修 1988年 中央公論社)
「季刊文化遺産12 騎馬遊牧民の黄金文化」(2001年 島根県並河萬里写真財団)
「古代王権の誕生Ⅲ 中央ユーラシア・西アジア・北アフリカ編」(角田文衛・上田正昭監修 2003年 角田書店)
「興亡の世界史02 スキタイと匈奴」(林俊雄 2007年 講談社)
「シルクロード 絹と黄金の道展図録」(2002年 NHK)