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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/09/25

帯に下げる小物入れは中国や新羅にも

 
突厥の金帯飾りについた小物入れに似たものがあった。

山岳仙人霊獣文錦袋 絹 長12㎝幅10㎝ ニヤ1号墓地8号墓出土 漢-晋時代(1-5世紀) 
『シルクロード絹と黄金の道展図録』は、緑地平絹の縁をめぐらし、中央に茶地平絹の帯紐をつけた櫛袋である。表の錦は経錦(たてにしき)で、藍地に後方を振り返る虎のような動物や角を生やした動物に仙人が乗っている姿が、立ち上がる山形風の雲気文の間に配されているという。
同展で見た時、手首に通して持つのだと思っていたが、突厥のように帯に下げていたのだろうか。櫛を入れるための袋というのは騎馬遊牧民が持ち歩きそうにないなあ。 
ニヤ遺跡についてはこちら 商談図(拓本) 石製 北斉(550-577) 高135㎝幅98㎝ 山東省清州市傳家村出土 清州市博物館蔵
『中国★美の十字路展図録』は、石板に線刻された画像は、囲屏もしくは石槨を構成していたものと推測される。頭に折上巾をつけた墓主と思われる人物が、筌蹄に坐して左手に杯を持ち、前に立つ胡人と対飲している。髪の毛がカールした胡人は胡服独特の派手な飾りの服を着、腰をかがめて相手の機嫌をうかがうかのようであり、奧に控えた人物がもつ珊瑚は献上品であろう。おそらくソグド人であるという。
胡人は腰に細い帯をしている。等間隔で区切りがあるので、銙板が付いた帯だろう。その下には丸い垂飾が銙板の区切りとは関係なく並んでいるのは、銙板と垂飾が同じ数だけある新羅の金製腰偑とは異なるところだ。
そして垂飾に通さずに、細い帯に直接小物入れが通してある。形は櫛入れと似ているが、蓋付なので、突厥の金帯飾りに下がった小物入れの方に近い。
漢人の商人も銙板のあるベルトをして、左脇には垂飾の間に長い紐で何かを吊り下げている。ソグド人の小物入れとは形が異なるが、小袋を腰に提げるのは当時の流行だったのかも。 胡服女子俑 唐(8世紀) 灰陶加彩 高50㎝幅13.3㎝ 咸陽市辺防村楊諫臣墓出土
『新シルクロード展図録』は、男装をした女俑で、襟を外側に折り(翻襟)、袖を搾った胡服を纏い、両手を腹前に置き直立している。胡服の下からは袴(こ、ズボン)と革靴が覗いており、腰帯から香袋のようなものを提げている。胡人の風俗を真似ることも当時の流行りであったという。
中国では8世紀ともなると、小物入れは円い妙な形になってしまった。当時の香袋はこんな形だったのか。
銙帯はまばらだが等間隔についていて、垂飾はなくなっている。そして、今まで気付かなかったが、ベルトの端は後ろ側に垂らすものだったのだ。そうだとすると、突厥の金帯飾りは、小物入れが腰側の左右にきたことになるなあ。 石人一対 慶州掛陵(クェルン) 統一新羅(798年頃)
『ユーラシアの風新羅へ展図録』は、韓半島の地にソグドを含む西域人が一定程度定着し、大規模に活動していたことを示す史料はない。史料はないが、新羅には東アジアの人種とは思えない特徴を持つ人物を表現した遺物が残されている。統一新羅時代の王陵級の古墳の前面に立ち並ぶ石像群の中にも、西域の人物と思しき武人像が存在する。ただし、これらの石造物や俑から、ソグド人らが新羅の地にいたかどうかを判断するのは実際には難しい。あるいは、唐の文化を導入した際に、それが誰を表しているのか理解されないままに異国風の人物を含む定型化したセットが認識され、石人像や俑として作られた可能性もある。
石人の後ろ姿には興味深いものがある。小さな楕円形のポシェットである。このような小物を入れる小さな袋は、騎馬の風習のある人々にも見られる
という。
こちらは平べったい小物入れだ。何かを持ち運ぶものというよりも、胡服と言えば腰に小物入れというように「定型化された」装飾だったのかも。巻き上げた袖のボリュームとはえらい違いだ。
長い上着の余った部分がベルトの上に垂れているので、銙帯や腰偑があるかどうかわからないが、慶州の積石木槨墳(-6世紀前半)から出土したような長い腰偑は流行らなくなって久しいのだろう。 騎馬遊牧民にとっては必要な腰偑のついた帯や小物入れも、中国の中原や山東省ではただの流行の装身具になり、更に統一新羅では袋という用途も忘れられてしまったかのようである。

銙板と垂飾についてはこちら

※参考サイト
佛教大学日中共同ニヤ遺跡学術調査

※参考文献
「新シルクロード展図録」 2005年 NHK
「中国 美の十字路展図録」 2005年 大広
「シルクロード 絹と黄金の道展図録」 2002年 NHK
「ユーラシアの風 新羅へ展図録」 2009年 山川出版社
「世界美術大全集東洋編10高句麗・百済・新羅・高麗」 1998年 小学館