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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/06/22

傾斜のある木棺3



契丹の傾斜のある木棺は、インド起源だという。
しかし、インドには仏伝図そのものが少なく、涅槃図や荼毘の場面は見付けることができなかった。ガンダーラの浮彫に幾つか棺があった。

納棺 ガンダーラ出土 2-3世紀 片岩 カラチ博物館蔵
『シルクロードの仏たち』は、クシナガラのサラ樹の林の東方にあるラーマパールのマクタ・バンダナ(宝冠寺)と呼ばれる社に運ばれた。
サラ双樹が立ち、棺の前には「香炉」か灯が置いてあるという。
棺は面取りになっているようだが、傾斜は見られない。
納棺 ガンダーラ 2-3世紀 灰色片岩 高46.5㎝幅51㎝ 平山郁夫シルクロード美術館蔵
『ガンダーラとシルクロードの美術展図録』は、仏陀の遺骸が収められた鉄の棺の回りには、最後の別れを惜しむ仏弟子たちが描かれているという。 
こちらは角の丸い棺だが、やはり傾きはない。
荼毘 ガンダーラ 3世紀 片岩 7X9-22.3㎝ 松岡美術館蔵
『ブッダ展図録』は、荼毘の火が大きく立ち昇り、両側に2人の人物が水甕の付いた棒を高く掲げている。
棺の端からよく見ると釈迦の足が出ており、その前で一比丘が跪き、右手を額に当てて礼拝する様子である。これは荼毘の火をつけようとした時、神々の意向で火がつかず、1週間後に遅れて到着した長老大迦葉(マハーカーシャバ)が「尊師の御足に頭をつけて礼拝し、礼拝し終わった時に、火葬の薪の堆積はおのずから燃えた」という『涅槃経』の記述を表したものだろうという。
こちらも高低差のない棺だ。 
涅槃 ガンダーラ、ロリヤンタンガイ出土 2-3世紀 片岩 カルカッタ博物館蔵
『シルクロードの仏たち』は、左端にマハ・カーシャパとアージヴァカ教の裸の修行者、枕元にいるのもマハ・カーシャバ(二度描かれている)、ベッドの下には執金剛神が釈尊寂滅のショックで立ち上がれない。その右に座しているのは最後の弟子スバトラ、釈尊の足元で腰が抜けて立てないアーナンダと手を差しのべるアヌルッダという。
この涅槃場面は釈迦の横たわるベッドに傾きがある。
涅槃場面の浮彫には、傾きのないベッドに横たわるものも多数あるが、傾きのある寝台は他にもあった。

涅槃 ガンダーラ、タキシラ 2-3世紀 片岩 タキシラ考古博物館蔵
『ブッダ展図録』は、釈迦は寝台に右脇を下にして足を重ね、右手を枕にし、左手を体に沿って伸ばして横臥する姿で入滅するという。
傾きのある寝台を意図的に表したのか、水平に表現するつもりだったのに傾きが出てしまったのかはわからない。
また、これが高低差のある棺へと繋がるのかどうかも不明だが、棺そのものに傾きのあるものは、インドにもガンダーラにも見つからなかった。

※参考文献
「図説釈尊伝 シルクロードの仏たち」久野健・山田樹人 1990年里文出版
「平山郁夫コレクション ガンダーラとシルクロードの美術展図録」田辺勝美ほか 2002年 朝日新聞社
「ブッダ展-大いなる旅路図録」1998年 NHK