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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/04/02

東寺旧蔵十二天図7 截金6網文



七宝繋文亀甲繋文は中に切り箔による装飾があり、一つの文様単位がある程度の面積を占める繋ぎ文だ。卍繋文には中に装飾はないが、やはり1単位にある程度の大きさがある。
しかし、十二天図には截金の直線を密に交差させた細かな斜格子の文様もいくつか見られた。それを網文とする。


3 風天 条帛
細かい網文が条帛一面に截金で表されているので、金色の占める割合が多い。
そこから主文の彩色菊花丸文が、地文からくっきりと浮かびあがっている。
4 水天 条帛
風天の条帛ほど線が密ではない。こちらの方が条帛の色が淡いので、この程度の密度の截金の線がが似合っている。
主文は彩色で、木瓜形のような花が4つ集まり、一つの円花文を作り、外周を截金が巡る。
6 閻魔天 条帛
左肩から下がる条帛部分に截金がよく残っている。そこでは襞によって色が異なったりしているが、網文はそれに関係なく、繋がっている。
8 帝釈天 足に垂れる紐
最も粗い網文。このように単純な文様にも、截金は映える。
同拡大
広い面には卍繋文、狭い帯状のものには網文。裾の裏側は描画による蔓草文。
網文は、古くから各地の土器にも表された文様だ。

鉢 彩陶 新疆ウイグル自治区ニルカ出土 前10-6世紀 口径16.8㎝高9.6㎝ 
『新シルクロード展図録』は、赤い顔料で餌を描いた鉢形の土器。口縁部直下と胴部にそれぞれ幾何学文による文様帯をもつ。口縁部直下は簡単な鋸歯文となり、胴部の文様構成は交互になる三角文であり、その中を交互に塗りつぶした方格文、平行斜線文、網文を描き分けている。このような彩陶もやはり新疆では先史時代から広く出土するという。
これまで見てきた細かな斜格子は斜格子文と呼ぶのかと思っていたが、この説明で網文の方が適していることがわかった。
では、大きな方を斜格子文とするのかというと、方格文らしい。菱繋文でも良さそうだ。

しかし、截金でつくるこの網文は、どこかから伝わった文様というのではなく、織物そのものの地文を表しているのではないかと考えている。

網文 暈繝夾纈羅の地文 8世紀中葉 正倉院蔵
『正倉院裂と飛鳥天平の染織』は、これは染めで暈繝文様を表した一例。染めの暈繝には、寒色系・暖色系を織り混ぜた複雑なものもあるが、これは最も色数の少ない方に属する。紺と黄のコントラストがまことにすっきりしている。天平勝宝8歳5月19日、聖武天皇ご葬儀用供具の花曼の断片であるという。
花曼も条帛も幅の狭い帯状のものなので、このような地文様は適していたのだろう。
網文 羅の地文 トルファン、アスターナ206号墓出土 唐時代、7世紀
『シルクロード絹と黄金の道展図録』は、いずれも細い帯状で、両端がカーブを描いた形から、もとは俑の肩掛けに用いられたものとわかる。
4点とも鮮やかな色をとどめており、透けるような薄物の羅という織物で、小さな襷文をはじめ、菱形にまとめられた九点文、大小の菱などを組み合わせた文様を織りだしているという。
さすがに初唐期の織物の技術はたいしたもので、菱形にまとめられた九点文という織り方がどの色の布をさすのかわからないくらいた。
菱形の地文様も様々だが、紺色の布が網文に近い。

つづく

関連項目
東寺旧蔵十二天図10 截金9円文
東寺旧蔵十二天図9 截金8石畳文
東寺旧蔵十二天図8 截金7菱繋文または斜格子文
東寺旧蔵十二天図6 截金5立涌文
東寺旧蔵十二天図5 截金4卍繋文
東寺旧蔵十二天図4 截金3亀甲繋文
東寺旧蔵十二天図3 截金2変わり七宝繋文
東寺旧蔵十二天図2 截金1七宝繋文
東寺旧蔵十二天図1 截金と暈繝
日本でいう暈繝とは

※参考文献
「王朝の仏画と儀礼 善をつくし 美をつくす 展図録」 1998年 京都国立博物館
「正倉院裂と飛鳥天平の染織」 松本包夫 1984年 紫紅社

「新シルクロード展図録」 2005年 NHK・産経新聞社
「シルクロード 絹と黄金の道展図録」 2002年 東京国立博物館・NHK