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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/04/12

東寺旧蔵十二天図9 截金8石畳文



十二天図には風天にだけ石畳文があった。一箇所とはいえ、この文様は気になる。

3 風天 平安時代、太治2年(1127)
鎧の胸飾りに、赤い地に四角い切り箔を石畳状に交互に並べている。
石畳文は実際の染織にある。

霰地唐花文錦 奈良時代後期(8世紀後半) 東大寺蔵
『正倉院裂と飛鳥天平の染織』は、花文間の空地にびっしりと地文を敷きつめた文様で、もとは唐花文から派生したものであろう。経は緑、緯は白・赤・黄の三色で、白の霰(細かい方形)だけの段と、赤い霰だけの段、およびそのそれぞれに黄が加わった二色の段とに分けられるという。
石畳文は霰という言い方もあるらしい。 
次に出てきた名称は、甃文(いしだたみもん)と市松文様だった。

甃文錦袍 絹 新疆ウイグル自治区民豊県ニヤ1号墓地3号墓出土 漢-晋時代(1-5世紀)
『シルクロード絹と黄金の道展図録』は、錦は青緑と黄で甃文(市松文様)を表わし、途中に茶と緑の色替わりになる甃文を縞のように入れて変化をつけており、単調な文様に彩りを与えている。使われている文様は、これまでに余り例のない簡素な幾何学文である。経錦は雲気文や動物文など複雑な文様が多い中で、この経錦の文様は特異な部類といえようという。
経錦は中国の伝統的な織り方なので、その中で石畳文が珍しい文様ということは、中国では石畳文が新来の文様だということだろうか。
そういえば、これまで見てきた中国の様々な文物の文様に、石畳文というのは見当たらなかったような気もする。
女神霊獣文臈纈綿布 新疆ウイグル自治区民豊県ニヤ1号墓出土 漢~晋時代(1-4世紀)
同書は、かなり大きな残欠であるが、文様の全容はおろか用途もうかがうことができないのは残念である。片側隅の方形内には、人物の上半身が描かれている。この人物は、後ろに円型の光背のような不思議な飾りをつけていることから、豊穣の女神であろう。人物の横は大きく方形に区画され、外区の横方向には長い胴をくねらせた龍のような動物と、その尾に食いつく耳の大きな驢馬風の動物がおもしろい。さらに龍の上下にはさまざまな姿態の鳥を納める。縦方向には細かな甃文(市松文様)を配し、内区には大型の動物を表しており、獅子ともいわれているが、尾と足がのぞいているだけである。
インドに端を発したといわれる臈纈といい、綿布といい、インドの影響が感じられるが、意匠などからすると、中央アジアで制作された可能性が高いと思われるという。
制作が中央アジアなら、石畳文は中央アジアから請来された文様ということになるだろうか。
毛織帯右側 新疆ウイグル自治区ロプ県サンプラ一号墓地1号墓出土 漢時代(1-3世紀)
同書は、多彩な毛の撚り糸を用いて、縦縞文様を表した帯紐である。細帯は、中央に小さな甃文(市松風の文様)を織りだす。暖色と寒色を巧みに組み合わせた配色が鮮やかであるという。 
毛織物ということなので、この帯も中央アジアからもたらされたものだろう。
しかしながら、石畳文は古くから広い地域で、土器を飾ってきた文様の一つである。

彩文土器皿 フリュギア時代(前8-7世紀) トルコ、ゴルディオン出土 イスタンブール考古学博物館蔵
縦横に複数の線を引くと格子になる。そこにできた小さな区画に、互い違いに色をつけると石畳文になる。
彩文土器壺 前3000年頃 エジプト出土 東京・中近東文化センター蔵
膨らんだ壺の胴体に正確に正方形を並べるのは容易いことではない。形は様々だが、石畳文と考えて良いだろう。 
彩文土器碗 前5000年紀 イラク・アルパチヤ出土 
方形の枠内に、互い違いに2つの文様が置かれている。これも石畳文の一種だろう。
この他、石畳文は前4000年紀の現イランの地出土の土器にも見られる古い文様だ。
それについてはこちら
しかしながら、七宝繋文や亀甲繋文のように、室内装飾や衣装の文様などに用いられることはなかったようだ。
ひょっとすると、中央アジアで紀元前後に染織に採用されるようになった文様かも。

つづく

関連項目
東寺旧蔵十二天図10 截金9円文
東寺旧蔵十二天図8 截金7菱繋文または斜格子文
東寺旧蔵十二天図7 截金6網文
東寺旧蔵十二天図6 截金5立涌文
東寺旧蔵十二天図5 截金4卍繋文
東寺旧蔵十二天図4 截金3亀甲繋文
東寺旧蔵十二天図3 截金2変わり七宝繋文
東寺旧蔵十二天図2 截金1七宝繋文
東寺旧蔵十二天図1 截金と暈繝
亀甲繋文と七宝繋文の最古はインダス文明?
エジプトに螺旋状髪飾りを探したら亀甲繋文や七宝繋文が
中国・山東省の仏像展で新発見の截金は
土器に格子文を探すと

※参考文献
「王朝の仏画と儀礼 善をつくし 美をつくす 展図録」 1998年 京都国立博物館
「日本の美術373 截金と彩色」 有賀祥高 1997年 至文堂
「正倉院裂と飛鳥天平の染織」 松本包夫 1984年
「シルクロード 絹と黄金の道展図録」 2002年 東京国立博物館・NHK
「世界の文様2 オリエントの文様」 1992年 小学館