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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/04/16

東寺旧蔵十二天図10 截金9円文



その他に気になった文様は、羅刹天の履く足袋にある。面積的には小さなものだが、羅刹天図の中央下部にあるので目についた。

5 羅刹天 足袋部分
菱形の切り箔9つで、八弁花文を構成している。花文というよりも、菱形の切り箔を縦横3つずつ並べた、九ツ目菱から発展した文様にも見える。
そしてそれを円で囲んでいる。円は銀箔、或いは、金箔と銀箔を合わせた截金で作り、後に変色したのかも知れない。
円の間には、同じ箔で小さな丸文を置いている。地文銀截金、主文金截金といったところだろうか。
円は七宝繋文のように重なることがなく、亀甲繋文のように密接することもない。わずかながら円文と円文の間に隙間がある。
このどこにでもありそうな文様は、意外なことにその類例が他に見つからない。
円はどこかで他の弧と繋がって唐草文になっているということもない。

また、これまで見てきた多数の円、あるいは連珠に囲まれた主文は、彩色文様が円形枠一杯に表されていた。

それは、東寺旧蔵十二天図の主文についてもいえることだ。
例えば、地天の裳には「米」形入り変わり(三重)七宝繋文の截金の地文に、彩色で花文の主文が置かれている。この花文には外側に截金の円が巡っているが、その枠いっぱいに団花文が表されている。
11世紀末の作品とされる釈迦金棺出現図(京都国立博物館蔵)には截金による主文が、やはり丸い枠いっぱいに表されている。
このように円の中の花文は、枠いっぱに表されることが一般的だったのに、この足袋の花文だけは中央に小さく置かれている。

それは、例えば月天の裳に表された七宝繋文中央の九ツ目菱文様や、
羅刹天の四ツ目菱二重立涌文のように、切り箔という大きさに制限のあるものを用いた文様と共通しているように思う。
截金の枠の中に、切り箔が作り出した小さめの文様を置くという地文から発生した、新たな文様ではないだろうか。

では、七宝繋文のようには隣接する円形の枠と重ならない、連続文様はどこからきたのだろうか。
パルミラのベル神殿(後32年)にはこのような連続文様が天井部分にあった。大きな浮彫なので、主文のアカンサスを囲むのは円、外側は八角形になっていて、上下左右に重なることなく並んでいる。そして、4つの八角形の間にできた四角形の空間にも囲いを作り、そこに四弁花文を入り込ませている。
それが円文となっただけなのだろうか。
パルミラの天井装飾と平安時代の仏画の意匠を関連付けるのには無理がある。
それよりも、このような截金や切り箔を貼り付けていった画工あるいは截金師が、それまでからある文様から創り出した、新たな文様と考えた方が無理がない。

関連項目
東寺旧蔵十二天図9 截金8石畳文
東寺旧蔵十二天図8 截金7菱繋文または斜格子文
東寺旧蔵十二天図7 截金6網文
東寺旧蔵十二天図6 截金5立涌文
東寺旧蔵十二天図5 截金4卍繋文
東寺旧蔵十二天図4 截金3亀甲繋文
東寺旧蔵十二天図3 截金2変わり七宝繋文
東寺旧蔵十二天図2 截金1七宝繋文
東寺旧蔵十二天図1 截金と暈繝

※参考文献
「王朝の仏画と儀礼 善をつくし 美をつくす 展図録」 1998年 京都国立博物館