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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/11/08

第65回正倉院展2 漆金薄絵盤(香印座)に迦陵頻伽



今年の正倉院展で一番華やかな作品がこの香印座だろう。東新館から吹き抜けのホール上の通路を歩いて行くと、西新館に入るまでに行列の最後尾が延びていた。係員の「どうしても最前列で香印座を見たい人は並んで下さい。30分かかります。少し離れた所からでもいいという人は左側から進んで下さい」と声を掛けていた。
昨年は瑠璃坏で行列に並んだ。この時も長く待つように言われたが、10分ほどで入れたように記憶している。きっと今年も10分もあれば見られるだろう。そう思って並んだら、最前列に着くまでに20分かかった。
しかし、並んでいると壁に貼られた大きく拡大したパネルをゆっくり見ながら勧めるので、実物よりも大きい画像で、作品の予備知識が得られるのだった。
小さな図版でぼんやりとしか見たことのない迦陵頻伽も三段目にある、しかも2枚に描かれていることもわかった。

漆金薄絵盤(香印座) うるしきんぱくえのばん 径56.0 南倉
『第65回正倉院展目録』は、大きく花開く蓮華をかたどった香を焚くための台。一番下に据えられる岩座はヒノキ材製で、白色下地を施して緑色と褐色の顔料を塗り、その上面に銅板を切って放射状に8本の柄を作り出したものを4枚重ねて丈夫な鉄釘で打ち付けている。柄の先端に鋲留めされた蓮弁は、各段に8枚ずつ並んで4段合計32枚からなり、1段ごとに互い違いになるよう魚鱗葺に固定されているという。
このように互い違いに組み立てていくことを魚鱗葺というのか。
蓮弁は、いずれも深い反りのある舟形の花弁をクスノキ材の一木から削り出したもので、全面に漆を厚く塗って白色の下地を施し、金箔及び多彩な顔料を用いて種々の文様を表す。
最上段及び第3段に配される蓮弁は、いずれも全面に金箔を押し、縁に沿って矢羽根形暈繝彩色の帯や唐草文がめぐり、中央に配される円形ないし木瓜形の枠内に主文様を描く。第2段及び最下段はいずれも縁に金箔を押し、青色ないし橙色地の内区に主文様を描くという。
ここに一つ目の迦陵頻伽がいた。
『日本の美術481人面をもつ鳥』は、古代のインド人は鳥のもつ美しい姿や心地よい鳴き声の象徴を自ら空想し求めようとした。そして生み出されたのが迦陵頻伽である。
迦陵頻伽は上半身が人、下半身が鳥からなる想像上の鳥である。スズメまたはその類で、一説にはインドでブルブルとよばれる鳥であるともいう。ただしその図像は細長い脚や尾羽をもつ水鳥に近い場合が多いという。
第3段なので、全面に金箔が貼られ、木瓜形の中に描かれている。これは図版で見ていたものとは違う。
色とりどりの羽根を持ち、それぞれの色がグラデーション(暈繝)に、丁寧に表されている。
斜め前方を向いて微笑むその手には、それぞれ蓮華のようなものを持っている。
瓔珞は2個の垂飾が幾つか付いているが、色は肌と同じ。褪色したのだろうか。
反時計回りに見ていくと、見える範囲では、迦陵頻伽はいない。
次に進むと迦陵頻伽が木瓜形の枠の内区に描かれていた。
こちらの迦陵頻伽が図版で見たものだ。
手にそれぞれ蓮華の蕾のようなものをのせている。体は斜め前方を向いているが、顔は右の蓮華を見つめているようだ。
瓔珞は小さな円形のものが5個付いただけのシンプルなものだが、黄色い色彩が残っている。
木瓜形の枠、その外側の楕円形の枠(藍色に見える)に小さな連珠文が施されている。
2羽の迦陵頻伽はどちらも木瓜形の内区に描かれ、上記の違い以外はほとんど同じのはずがどこかが異なっている。それがやっとわかった。この内区には迦陵頻伽の羽根とは思われない巻き毛のような、波のようなものが内区の縁に描かれている。その分迦陵頻伽が小さいのだった。
もちろん、羽根も内区の縁の飾りも、暈繝を駆使して極彩色で描かれている。
一巡最後の箇所には迦陵頻伽は登場しない。
ところで、上の4枚のパネルを見ていて気になった青銅の柄は、1本1本作って中央の芯に差していったのだと思っていたら、解説文にあるように、一枚の銅板を切り出し、4枚重ねたものだった。
上から見ると、蓮弁の内側には花も鳥も描かれず、蓮弁らしい彩色になっている。
そして、8X4枚の蓮弁の上に蓮台がのり、そこに香印をのせて、長時間香を焚いていたらしい。


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                →第65回正倉院展3 今年は花喰鳥や含綬鳥が多く華やか

関連項目
第65回正倉院展7 花角の鹿
第65回正倉院展6 続疎らな魚々子
第65回正倉院展5 六曲花形坏の角に天人 
第65回正倉院展4 華麗な暈繝

※参考文献
「第65回正倉院展目録」 奈良国立博物館編 2013年 仏教美術協会
「日本の美術481 人面をもつ鳥 迦陵頻伽の世界」 勝木言一郎 2006年 至文堂