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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2015/06/30

浮彫タイルは浮き出しタイルとは別物



シャーヒ・ズィンダ廟群では、14世紀後半には、壁面装飾として、すでに完成した浮彫タイルがふんだんに使われていた。
それについてはこちら

12 アミール・ザーデ廟 AMIRZADE MAUSOLEUM 1386年

13 トグル・テキン廟 TUGLU TEKIN MAUSOLEUM 1376年

14 シャディ・ムルク・アガ廟 SHODI MULK OKO MAUSOEUM 1372年

このような透彫にも見えるほど深く刻まれ、文様も緻密な浮彫タイルは、どこで生まれ、どのようにティムール朝に伝わったのだろう。
いつものように、遡ってみていくと、

ラスター彩浮出し鳳凰文タイル イル・ハン朝、14世紀初頭 27.6X27.1X1.5㎝ イラン出土 個人蔵
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、2羽の鳳凰が旋回して飛ぶ図柄。同時代の陶器にも多いという。 
浮彫といっても多少凹凸がある程度。
青釉十字形浮出文タイル 13世紀 41.5X160.0㎝(の部分) カシャーン出土
植物文を浮彫にした十字形のタイルだが、シャーヒ・ズィンダ廟群の浮彫タイルとは趣が異なる。

コーニスの浮彫タイル 13世紀 イラン考古学博物館蔵
地文に蔓草や組紐文あるいは幾何学文、主文にアラビア文字が表され、高浮彫ではある。

ラスター彩唐草文字文フリーズタイル断片 イルハーン朝(13世紀中葉-1275年頃) イラン出土 29.8X31.5X2.8㎝ 個人蔵
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、この時代のフリーズタイルには、ラスター彩やラージュヴァルディーナで、地文に植物文や鳥、小動物を描き、浮彫で銘文を表したものが多い。
断片だが、後補や補彩がなく、当初の色彩やラスターの光沢を保っている。ペルシア語銘文は解読困難という。
コバルトブルーの銘文のみが浮き出ている。

藍地色絵金彩十字形タイル イル・ハン朝、13世紀後半 幅21.9㎝ イラン出土 中近東文化センター蔵
同書は、セルジューク朝~イル・ハン朝時代には星形と十字形など複雑な形のタイルを組み合わせる方式が多いという。
ラージュヴァルディーナに細い白色で蔓草文らしきものが描かれている。
浮彫は文様に添っているようであるが、ぼんやりとしたものだ。
藍地色絵金彩唐草文変形六角形タイル イル・ハン朝、13世紀後半 14.9X11.8㎝ イラン出土 岡山市立オリエント美術館蔵
同書は、イル・ハン朝時代の星形タイルは幅が20㎝を超すものが多く、銘文を巡らせ、ラスター彩やラージュヴァルディーナで人物文、植物文、鳥や山羊、兔などの動物文が描かれたという。
中心にかざぐるまのようなロゼット文を描き、その周囲に各角に向かって咲く花文が表される。
植物文がやや浮き出ている程度。
空色地色絵金彩鳳凰文星形タイル 1270年代 20.9X21.2X1.8㎝ イラン、タフテ・ソレイマーン出土 世界のタイル博物館蔵 
同書は、タフテ・ソレイマーン遺跡は、イル・ハン朝第2代アバガ・ハーンの宮殿跡。発掘ではカーシャーンの陶工が出向いてきて臨時に築いたタイル窯や、成形用の型など、制作実態が窺える資料も見つかった。またここでは中国の元朝から伝わった龍と鳳凰のモティーフが支配者の象徴として星形タイルとフリーズタイルに取り入れられている。
12世紀後半~13世紀初頭には絵画的な精密描写が特色のミーナーイー技法が盛んであったが、製作技法では、青釉とラスター彩に加えてラージュヴァルディーナが多い。13世紀後半からそれは空色か藍色の地に限られた色数の色釉と金箔を重ねるラージュヴァルディーナ技法に代わられるという。
金彩、あるいは金箔を貼る部分のみが浮き出されている。 
青釉ミフラーブ形タイル セルジューク朝、12-13世紀 31.2X22.5X2.5㎝ 個人蔵
同書は、モスクの壁に設けられたメッカの方向を示す窪み、ミフラーブを表したタイルが墓標などに用いられた。銘文にはコーランの章句や被葬者への言及と年記をともなうことが多いという。
全体に浮彫で文様を表している。このようなものが徐々に高浮彫へと発展していくのかと思っていたが、このようなものと、イラン考古学博物館蔵のコーニスの隙間を埋めるものがまだ見つけられない。 

青釉文字文フリーズタイル セルジューク朝、12-13世紀 23.9X33.4X1.5~3.0㎝ イラン出土 個人蔵
同書は、セルジューク朝時代末期から色鮮やかな青釉タイルが多くなった。これは石英分の多い、粒子の荒い白い胎土にアルカリソーダ系の釉をかけて、含まれる銅の成分を青く発色させたもので、それまでの鉛釉陶器では銅は緑に発色する。
フリーズタイルは、建物の内壁で腰羽目の上縁に沿って水平に連なり、アラビア文字銘や植物文などを連続的に表したという。
これまで見てきた中では彫りが深い方。

緑釉浮出し花文タイル 12-13世紀頃 18.6X16.6X2.7㎝ イラン北東部からトルクメニスタン出土 個人蔵
同書は、赤みの強い粘土へ型押しや貼り付け、刻線で浮彫を施し、白い化粧土に緑釉をかけて焼いているという。
亀甲繋文にはならず、イスラームの幾何学文らしく、複数の図形の組み合わせになっている。
くっきりとした凹凸がある。
褐色釉動物文タイル ゴール朝、12世紀末-1221年 3.5X3.3㎝ アフガニスタン、ガズニ出土 中近東文化センター蔵
同書は、表面を平滑に焼くのではなく、土を成形したときに浮彫を施し、そこに釉薬をかけて焼くという浮彫タイルも11世紀半ばから12世紀のアフガニスタンのガズナにさかのぼる。テラコッタに着色するという意図と浮彫スタッコをより恒久的にしたいという意図が重なって考案されたのであろうか。
都のガズニで出土したゴール朝期のタイルは、一辺が10㎝くらいまでの四角形か多角形で、型抜きで動物文や連珠文などを表わし、褐色、緑、黄褐色、青などの釉がかかっているという。
全体にみて、下半分はくっきりとした凹凸、上半分は彫りの浅い浮彫となっている。
青釉浮出文字文タイル 12世紀 19.0X24.5X3.8㎝ カシャーン出土
『イスラームのタイル』は、図案化されたアラビア文字は、幾何学文様や植物文様と並んで、イスラームの装飾美術の重要な要素となっている。直線を基本とした荘重で力強いクーフィー体(イラクの古都クーファに由来した名前)や、丸みを帯びた流麗なナスヒー体などが、装飾タイルや陶器に描かれたという。
施釉でも高浮彫のものはあったのだ。
文字銘無釉タイル 10-13世紀頃? 10.9X17.9X7.0㎝ アフガニスタンまたはイラン東部?出土 舞鶴市赤れんが博物館蔵
同書は、イスラム時代初期のクーフィー書体でアラビア文字銘文が表されているという。
厚さが7㎝もあるので、これだけ高浮彫にできたのだろう。でも、施釉タイルではここまで深い彫りのものは見られない。

植物文無釉タイル 9-11世紀? 8.9X8.9X3.0㎝ メソポタミア-イラン? 岡山市立オリエント美術館蔵
同書は、イラン、中央アジア、アフガニスタンでも11世紀頃までには無釉煉瓦の複雑な配列や浮彫で建物を飾ったが、それは以後も施釉タイルと長く共存した。無釉の建築装飾は時代による変遷が明瞭ではなく、年代・場所の特定が難しいが、粘土素地の色彩や、日射による陰影の効果など特有の魅力は多いという。
無釉タイル-が高浮彫なのは、陰影の効果を狙ったものでったのか。

どうも施釉浮き出しタイルきは、シャーヒ・ズィンダ廟群で見られるような透彫かと思うほどの高浮彫のタイルの元になったものではないようだ。

               →浮彫施釉タイルの起源は漆喰装飾や浮彫焼成レンガ

関連項目
浮彫タイルの起源はサーマーン朝?
タイルの歴史
シャーヒ・ズィンダ廟群3 アミール・ザーデ廟
シャーヒ・ズィンダ廟群4 トグル・テキン廟
シャーヒ・ズィンダ廟群5 シャディ・ムルク・アガ廟



参考文献
「世界のタイル・日本のタイル」 世界のタイル博物館編 2000年 INAX出版
「聖なる青 イスラームのタイル」 INAXBOOKLET 山本正之監修 1992年 INAX出版
「イスラーム建築の見かた 聖なる意匠の歴史」 深見奈緒子 2003年 東京堂出版
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2003年 岡山市立オリエント美術館