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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/06/24

中国の古鏡展1 唐時代にみごとな粒金細工の鏡


根津美術館で開催されていた『村上コレクション受贈記念中国の古鏡展』で、1点だけだが細かな粒金で装飾された鏡があった。

貼金緑松石象嵌花唐草文鏡 唐時代(8世紀) 径5.5㎝ 重70g 
同展図録は、円形鏡体の鏡背面(文様面)に非常に薄い金板をはめ込み、その上に文様をつくる。全面に瑞花をあらわす文様構成をとるが、瑞花の茎はすべて薄い金板であらわす。鈕のまわりを蓮華形に囲い、そこから外側に向かって茎を放射状に伸ばすという。
小さな鏡やながら、地にあたる広い面積を極小の粒金が覆っているのには驚きを禁じ得なかった。以前に調べた範囲では、中国では粒金細工の遺例があまり見られなかったからだった。
葉は緑松石(トルコ石)象嵌であらわし、茎の隙間はすべて金の細粒を充填する。盛唐期を中心に発達した宝飾背鏡の一種と考えられるが、類例に乏しい珍品であるという。 
たいていは貴石の象嵌はその形には削られていても、表面にパルメットや葉脈のような浮彫を施したものはあまり見かけない。珍しい粒金細工だけでなく、このような点からも非常に珍しいものだろう。

中国の粒金細工の作品をもう一度見てみると、

玉象嵌金竈 かまどのミニチュア模型 前漢後期(前1~後1世紀初) 陝西省西安市沙波村漢墓出土 高1.1長3.0㎝ 西安市文物管理委員会蔵
「世界美術大全集東洋編2」は、金の細線と細粒を吹管の炎によって巧みに「ハンダ付 け」し繊細な意匠を表した装飾品は、メソポタミア初期王朝やエジプト第12王朝にあり、前6世紀から前3世紀のギリシアやエトルリアに発達した。中国には 前3世紀の戦国末期に出現し、前1世紀から後1世紀に中国独自の意匠をもつ装飾品として盛行する。
実際の竈を細金細工で細やかに表現している。竈台の側面と上面には金糸・金粒で雲気文を表し、鍋に満たされた御飯(盛り上がった金粒)は福禄寿をかなえてくれる現世利益的なお守りとして貴族のあいだで用いられたものだろう
という。
ご飯を表した碗の中の粒金は、1㎝にも満たない中に、びっしりと並んでいる。欠落したのか、隙間もあるが、割合整然と並べてある。


金帯金具 後漢前期(1世紀) 長9.4㎝ 平壌市石巌里9号墓出土 韓国国立中央博物館蔵
『世界美術大全集東洋編2』は、金の薄板を用い、中心に1匹の大龍とその周囲に6匹の小龍を高肉に打ち出したものである。龍身は、その中心線をやや大きな金粒を並べて示し、体部には小さな金粒が密集してつけられている。龍の目鼻や輪郭線などを金線で表し、締具の周囲も金線を折り曲げた文様で装飾されている。雲気文は金線とそれに沿った1列の金粒で表現している。また、締具の各所にトルコ石(緑青石)などの宝石が象嵌されており、多くはすでに抜け落ちているが、もとは41個あったという。 
躍動感のあるみごとな龍の高浮彫で、粒金の大きさも揃っている。
後漢時代にすでに完成された技術だったのだ。

金糸金粒嵌玉獣文玉勝形簪頭 後漢~三国時代(2~3世紀) 
『世界美術大全集東洋編3』は、この作品は中国へ伝わった初期、漢時代末か三国時代の作であろう、金粒の大きさがまちまちで、金糸も太く、なお技術の未熟が感じられるという。
後漢が滅んだ後、粒金細工の技術は低下してしまったよう。

金帯金具 西晋、306年頃 湖南省安郷県山南禅湾劉弘墓出土 長9.0幅6.0㎝ 湖南省、安郷県文物管理所蔵
『世界美術大全集東洋編2』は、後漢の金製鉸具の伝統を引くものであるが、その作りはより精緻、華麗になっている。
金の薄板を透彫りにして1匹の大龍を形作り、輪郭線などは、やはり金線で表現している。龍身にびっしりと接合された金粒はより小さくなり、象嵌された宝石の数も多くなっている。
鉸具もそれぞれの王朝の中枢部で製作され、たんなる装飾品としてではなく、所有者の身分を表すものとして、皇帝より下賜されたものであろう
という。

比較的争いの少なかった南朝では、粒金細工の技術は蘇ってきたようで、龍の体を覆う粒金はかなり小さい。このような技術が唐時代まで受け継がれていたのだ。
しかしながら、龍の造形という点では、後漢にははるかに及ばない。

                         →中国の古鏡展2 「山」の字形

関連項目
黄金のアフガニスタン展1 粒金のような、粒金状は粒金ではない
黄金伝説展1 粒金細工の細かさ
中国の古鏡展5 秦時代の鏡の地文様は繊細
中国の古鏡展4 松皮菱風の文様(杯文)
中国の古鏡展3 羽状獣文から渦雷文、そして雷文へ

※参考文献 
「村上コレクション受贈記念 中国の古鏡展図録」 2011年 根津美術館 
「世界美術大全集東洋編2 秦・漢」 1998年 小学館
「世界美術大全集東洋編3 三国・南北朝」 2000年 小学館