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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/03/10

托胎霊夢


カラ・テパ遺跡から仏伝図のうちの托胎霊夢の場面を表したと思われる浮彫断片から出土している。

「托胎霊夢」浮彫断片 3-4世紀 石 10.0X15.0㎝
『ウズベキスタン考古学新発見』は、円盤内に象が表現され、その上部に欄楯が表される。ガンダーラ美術では聖なる夢の表現として、円盤内に象を表す。この浮彫もガンダーラの表現を踏襲したものだろう。欄楯は摩耶夫人が眠っている宮殿の建物を表したという。
円形の枠内に象が表されている「托胎霊夢」はインドあるいはガンダーラで見られるものだ。

托胎霊夢について『シルクロードの仏たち』は、釈尊は地上に生まれ降りる直前まではトウシタ天(兜率天)という天上世界に住み、シュヴェーターケートゥ(浄幢菩薩)と呼ばれていた。そこではブラフマン(梵天)、インドラ(帝釈天)、四天王、天人天女や多くの神々と一緒であった。
天上では神々が協議の結果、王妃マヤが選ばれた、このような物語は大乗仏教の勃興とともに創作され、釈尊の神格化と超人化が進んでから成立した内容である。
シュヴェーターケートゥは天上から地上に降りる時期が熟したので、6本の牙のある白象に姿を変えて、母となる王妃マヤの右腕から体内に入った。
釈尊の父王シュッドウダナ(浄飯王)のカビラヴァストウの城内で、マヤ夫人は快い眠りの中で、この白象のことをはっきり夢にみていた。この白象の夢をみて受胎したので、托胎霊夢というという。

インド中部バールフット出土欄楯浮彫 前2世紀末-前1世紀初 砂岩 コルカタ博物館蔵
同書は、作風は稚拙であるが、古代人の力強さが感じられる作品である。右端にあるランプは夜の出来事を表示している。
前2世紀末には仏伝図が出来上がっていたことが分かる。バールフットの浮彫りは仏教美術史上最古のものであるという。
大きな円の中央に置かれた寝台に横たわる摩耶夫人の真上に巨大な象がやってきている。

インド南部アマラバティ出土 2世紀 石灰岩 コルカタ博物館蔵
同書は、左上には浄幢菩薩が象に姿を変えて輿に乗って地上へ向かうところである。右側はマヤ夫人が夢をみているところ。
古代インドの托胎霊夢図中の白象の牙は2本の作品が多いという。
左の場面では4人で担ぐ輿には小さな象が乗っている。柱や斜めの梁で区画された内側では摩耶夫人が寝台に横たわり、数名の女性が寝台を囲んでいる。その上の横梁?には、もっと小さな象が浅く彫られている。

アマラバティ出土 2世紀 石灰岩 マドラス考古博物館蔵
同書は、象の姿は上部横梁に小さく描かれている。アマラバティのある南インドではアーリア人の侵入もなく、南インド独特の躍動な作風が開花しているという。
象は横梁を左方に歩いている。そにはアカンサスではないものが浅浮彫されているがよくわからない文様だ。
宮殿というよりも欄楯の1区画が仏伝に当てられていて、横梁にいる象の下から団扇状のものがその場面内にさがっている。これが象を表すものかどうかわからないが、象のいる円が場面の中に入っていく過程を表しているようで、興味深い。

ガンダーラ出土 2-3世紀
ガンダーラでは場面の中に円に囲まれた象が登場している。象は摩耶夫人の方に斜めに下降していく。

スワート出土サイドゥ・ストゥーパ 2-3世紀 緑色片岩 21.5X34.5㎝ スワート考古博物館蔵
『ブッダ展図録』は、象を円盤内に表すのは、霊的な夢であることを示すガンダーラの表現方法であるという。
象を囲む円盤に意味があるのだった。

ガンダーラ出土 2-3世紀 ラホール博物館蔵
「ガンダーラ美術の見方」は、夢の中の象には円型の光背がついていてやがて如来になることを思わせるという。
象を包み込む円は象の光背だという説もある。

カラ・テパ出土の円に囲まれた象は、摩耶夫人に向かって、欄楯(バルコニー)と場面内との境界まで来ていることを表している。しかし、まだ下向きにはなっていない。
これだけの例で断言することはできないが、割合早い段階の托胎霊夢の図像が、古テルメズに入ってきて、それが後の時代でも踏襲されているのではないだろうか。

おまけ
カラ・テパ出土の托胎霊夢図断片について『ウズベキスタン考古学新発見』は、欄楯は摩耶夫人が眠っている宮殿の建物を表したという。宮殿の様子を表した仏伝図があるので、添付しておく。

仏伝部分「出家決意」 2世紀頃 片岩 高61.5幅46.5厚9.5㎝ カラチ国立博物館蔵
『パキスタン・ガンダーラ彫刻展図録』は、上段は宮殿内の様子を、下段ではシッダールタ太子(釈迦)が出家を決意した瞬間を描いている。
下段中央にはバルコニーがあり、中央には牛頭、その左右には頭光を負う日天と月天が配されている。太子は上段でかぶっていたターバンを脱ぎ、髷姿に変わっているのが注目される。バルコニーにいる牛頭は、出城の日が満月であったことを象徴する存在とされるという。
バルコニーにいる人物で日天と月天は頭光をつけているが、その両隣には頭光のない人物が表されている。上の方の桟敷席で観劇する人々のように、宮殿で起きていることを眺める第三者のようで、興味深い。
また、ガンダーラ出土の化粧皿(前2-前1世紀)に4つに区画されたうちの一つだけに、右手に何かを持った女性胸像が表されているものがあった。それを見て、バルコニーで主場面を眺め降ろしている人物へと繋がるのではと思ったのだった。
その他にも、バルコニーの両側のアーチ形は、ファヤズ・テパ出土の仏三尊像の龕を想起させるし、円柱の柱礎の形や柱頭の獅子グリフィン、そして床下のアカンサスなど、非常にモティーフの豊富な浮彫である。





※参考文献
「図説釈尊伝 シルクロードの仏たち」久野健・山田樹人 1990年里文出版
「平山郁夫コレクション ガンダーラとシルクロードの美術展図録」田辺勝美ほか 2002年 朝日新聞社
「ブッダ展-大いなる旅路図録」1998年 NHK
「パキスタン・ガンダーラ彫刻展図録」 2002年 NHK
「ガンダーラ美術の見方」 奈良康明監修 山田樹人著 1999年 里文出版