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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/03/07

カラ・テパ遺跡2 出土物


遺跡の出土品はウズベキスタン歴史博物館に展示されている。

北丘
『ウズベキスタン考古学新発見』は、北丘の屋根の架けられている大ストゥーパについて、このストゥーパの機能したある時期、大ストゥーパ基壇の西側正面は、仏陀、菩薩、供養の男女、象、獅子、ガルーダ、その他のアカンサスを背景にした小彫刻で飾られていたという。
ここから出土したものかどうか定かではないが、これに該当すると思われるものをまとめてみると、

仏坐像 2-4世紀 塑造 ウズベキスタン歴史博物館蔵
施無畏与願印にしては右腕が水平に出ている。やつぱり禅定印かな。 
仏陀像頭部 3世紀 塑造石膏仕上げ
おそらく金箔で顔面または露出している首や手足などを荘厳している。
顔は角度によってかなり感じが違ってみえたりするので、はっきりしたことは言えないが、ファヤズ・テパ出土の仏三尊像の主尊に似ている。
菩薩像頭部 3世紀 塑造石膏仕上げ
仏陀とはだいぶ顔つきが違う。頭部に布を巻いたようなものは冠とも思えない。
天部像頭部 3-4世紀 11.0X10.0X6.0㎝ 塑造 北丘西側正面出土? ウズベキスタン歴史博物館蔵
『ウズベキスタン考古学新発見』は、着彩されて、大きな眉と見開いた眼が印象的であるという。
もう少し上から見下ろしたら、この顔も上の仏陀像に似ているかも。
菩薩立像断片? 2-3世紀 塑造
ダルヴェルジン・テパ出土の仏像のように、型成形の飾りが盛り上がっている。
執金剛神像 3世紀 石灰岩 
金剛杵を握る手の甲や指、そして着衣、足先など、未完成品のよう。
執金剛神について『仏教美術用語集』は、金剛杵を持って仏法を守護する天部。一般に仁王と呼ばれ、上半身裸形の姿で守門神となる場合が多いという。
ヘレニズムによって将来されたギリシア神話のヘラクレスは、グレコ・バクトリア朝エウティデーモス1世の銀貨(前230-190年頃)やインド・グリーク朝エウティデーモス2世の銀貨(前190-171年頃)ではギリシア風に棍棒を持っているが、その後仏教に取り込まれ、パキスタン、ローリヤーン・タンガイ出土の仏伝図(1-2世紀)では金剛杵を持つ執金剛神として登場している。
それについてはこちら
供養者像頭部 3-4世紀 15.0X10.0 塑造型つくり ウズベキスタン歴史博物館蔵
生き生きとした表情を見せているという。
小仏頭型よりも一回り大きなものだが、それだけの違いで、同じ型つくりだが、頬の膨らみなどが生き生きした表現になっている。
供養者像 3-4世紀 塑造 北丘西側正面出土 ウズベキスタン歴史博物館蔵
男性:30.0X9.0X9.0㎝
女性:35.0X11.0X8.0㎝
『ウズベキスタン考古学新発見』は、頭部を失うが、合掌する手に花をつかむ姿の供養者像。女性像はインド風の衣装であるが、男性像はこの地方の上着とズボンをつけている。たくさんの花を合掌する手にはさみ持つポーズが興味深いという。
女性像 3世紀 大理石のような石灰岩 出土場所不明
菩薩特有の瓔珞とは異なる首飾り、着衣とその衣文。仏教の像とは思えない。
鎧を着けた武人像胴部 3-4世紀 石 8.5X8.5X2.7㎝ ウズベキスタン歴史博物館蔵
『ウズベキスタン考古学新発見』は、石製人物像は小さいものが多いが、頭光をつけた菩薩頭部や天部とみられる像、鎧を着けた武人など様々な人物像が見られる。それらは菩薩なのか、天部(守護神)なのか、あるいは供養者なのか、必ずしもはっきりしないものも多い。小像が多いことから見ると、仏伝などの説話浮彫の一部であった可能性もあるという。
「托胎霊夢」浮彫断片 3-4世紀 石 10.0X15.0㎝
『ウズベキスタン考古学新発見』は、円盤内に象が表現され、その上部に欄楯が表される。ガンダーラ美術では聖なる夢の表現として、円盤内に象を表す。この浮彫もガンダーラの表現を踏襲したものだろう。欄楯は摩耶夫人が眠っている宮殿の建物を表したという。
「象」というのはこのことかな。
托胎霊夢の場面なら、この下に寝台に横たわる摩耶夫人の姿が表されていただろう。
托胎霊夢についてはこちら
ガルダ(金翅鳥)像断片 3-4世紀 石 15.0X7.0X8.5㎝
毒蛇を食べるガルダは金翅鳥と呼ばれ、仏教の守護神となるが、中央アジアではとくに天空飛翔のテーマと結びついているという。
龍の頭部 3世紀
龍には見えないが、ガルダでもない。
獅子面 3-4世紀 石 10.0X8.0X7.0㎝
装飾的な獅子面も中央アジアで好まれている(ホータンのテラコッタ製獅子面など)という。
頭部や鬣の穴には何かが象嵌されていたのだろうか。

小ストゥーパ基台 南丘コンプレクスC出土 塑造
『ウズベキスタン考古学新発見』は、32個蓮弁レリーフ。同様のデザインが日本の寺院の燈篭などの基台にみられる(B.Staviskiによる)という。
角ばった弁端で2本の葉脈の表された蓮弁

出土場所は不明だが、こんな蓮華座も発見されている。

蓮華座 2-3世紀 塑造
1本の葉脈がある蓮弁が3段、失われた部分があるので正確な数は不明だが、一段に20数枚の蓮弁が巡っている。3段もあるのでこんもりと盛り上がっているが、この上にストゥーパが置かれていたのだろうか。

仏坐像 2-4世紀 塑造 西(中)丘ストゥーパの側の龕内出土
結跏趺坐し禅定印を結ぶ

アカンサス柱頭 2-3世紀 大理石のような石灰岩 
アカンサス柱頭 2-3世紀 大理石のような石灰岩
アカンサス断片 3世紀 彩色粘土

ストゥーパの平頭(ハルミカ)タイプの柱頭 3-4世紀 大理石のような石灰岩 35.0X30.0X33.0㎝ ウズベキスタン歴史博物館蔵
『ウズベキスタン考古学新発見』は、その形態からみて、当初奉献小塔の丸い覆鉢の上に載せられていたものと推定される。平頭に表された城塞文様や欄楯文様はインドの初期仏教美術以来見られるが、軒蛇腹の建築モティーフはガンダーラに見られる。おそらくガンダーラの形式を継承したものだろうという。
6弁花文は各辺に表されているのだろうが、何の花だろう。蓮華ではないようで、西方将来の文様のようだ。その四方の角に表された角柱には、

建築装飾断片 3-4世紀 大理石のような石灰岩 10.5X20.5X6.0-8.0㎝
建築装飾断片 3-4世紀 石 10.0X15.0㎝ 
金箔の痕跡が。

柱頭装飾断片 3-4世紀 石 35.0X15.0X6.0㎝ ウズベキスタン歴史博物館蔵
同書は、アカンサス葉形と渦巻曲線が残る。コリント式柱頭の一部という。
柱頭装飾断片 3-4世紀 石 12.5X9.2X12.0㎝ ウズベキスタン歴史博物館蔵
アカンサス葉形から供養者が上半身を現すコリント式柱頭。コリント式柱頭はアイ・ハヌムから出土したギリシア・バクトリア以来のモティーフであるが、人物上半身をアカンサス葉形に配するのはガンダーラやスワートにも繋がっていく手法であるという。

開敷蓮華文付きの容器の蓋 3-4世紀 径14.5X5.0㎝ テラコッタ ウズベキスタン歴史博物館蔵
開蓮華文様を施したものが5点ある。この陶製容器が中庭に用いられたか明確ではないが、舎利容器として用いられたものかもしれない。蓋中央に蓮肉をデザインしたつまみをつくり出している。開蓮華文様にはヴァリエーションがあるが、9-10弁の先の尖ったスイレン型の花弁のものが多いという。

小仏頭型 3-4世紀 石膏 9.0X7.5X4.5㎝
同書は、塑像を造るための型。中央アジアで流行する塑造彫刻の技法を知る上で貴重なものという。
小さなものなので、頭髪の造形も丁寧ではない。
装飾文の型 3-4世紀 石膏 18.0X10.8X2.5㎝
仏頭や装飾文様、あるいは獅子面をそれぞれ表した石膏製の型が見つかっている。これらは塑像を造るための型で、中国新疆からもこのような型が少なからず発見されている。装飾文様の型は菩薩や天部、供養者などの装身具を造るためのものだったのではなかろうか。中央アジアで旅行する塑造彫刻の技法を知る上で貴重なものであるという。
ダルヴェルジン・テパ出土の菩薩立像(2-3世紀初)の盛り上がった装身具なども、このような型で作られたのだろう。

左:把手付水差し 5-6世紀 19.7X12.5(口径7.5、底径4.7)㎝
長い頸に下ぶくれの胴がつき、曲線的な把手をつけたペルシア系水差しで、しかも注ぎ口も鳥の嘴をかたどっており、大層ペルシア的な意匠であるという。
右:アンフォラ型陶器 5-6世紀 37.0X10.0X?
胴が下ぶくれのずんぐりした形でペリケー型に近いが、バクトリア地方でギリシア系陶器が愛用されたことを物語るという。
ギリシア系の壺とペルシア系の水差しがともに陶器で造られ、使用されていたことは、この地の文化のあり様を示すものとして興味深いという。 
しかし、北丘の大ストゥーパの下段基壇に沿って、その床面に24個の水差しが並べられていたといが、時代が違うので、このような水差しではなかっただろう。

『ウズベキスタン考古学新発見』は、カラ・テパからの出土品の数々は、ギリシア・バクトリア王国以来のヘレニズム文化の伝統、クシャーン時代におけるギリシア・ローマ、イラン系中央アジア、インドの壮大な文化交流、ガンダーラの仏教図像の導入、これらを背景にしながらバクトリア文化が形成されていったことを物語る。バクトリアは中央アジアの重要な文化的拠点となり、北西インドにも影響を与え、同時にソグディアナや中国新疆にも大きな影響を及ぼしていったことが推測されるという。


   カラ・テパ遺跡1 洞窟寺院← →托胎霊夢

関連項目
黄金のアフガニスタン展4 ヘラクレスは執金剛神に
ファヤズ・テパ遺跡1 ストゥーパ

参考文献
「ウズベキスタン考古学新発見」 加藤九祚 2002年 東方出版
「BUDDHISM AND BUDDHIST HERITAGE OF ANCIENT UZBEKISTAN」 2011年 
「仏教美術用語集」 中野玄三編著 1983年 淡交社