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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/08/31

軍旗とスタンダード


ナクシェ・ロスタムのシャープール2世戦闘図には長槍を持ち敵と戦う王の後ろに旗持ちが一人だけ描かれている。
その旗というのが、長い棒の先が3つに分かれ、それぞれに房飾りのようなものが付いている。その素材が柔らかいものか、金属でできたものかもわからないが、現在で言う旗とはかなり違ったものだ。
これは軍旗で、スタンダードとも呼ばれているものなのだろう。
形だけでいうと、下図の生命の樹に似ている。

牡牛文の碗(部分) 前2000年頃 ビチュメン 高9口径18㎝ スーサ出土 ルーヴル美術館蔵
『世界美術大全集東洋編16』は、碗の側面には山と聖樹、うずくまる牡牛の像が4回繰り返されている。一番下には円弧文で小高い山が表現され、その上に様式化された樹木文が配される。枝が左右に伸び松毬のような塊が並んでおり、樹の上には松毬文様が集まった蕾のようなものがある。
メソポタミアを中心に発達した「生命の樹」のモティーフの典型的なものの一つである。甘い水の流れ出る山の頂上にある聖樹によき動物の代表である牡牛が寄り添い、全体が豊饒と再生の象徴的図像となっているという。

ところで、シャープール2世戦闘図のスタンダードを見て思い出したのが、アナトリアのアラジャフユックの出土品だ。

儀式用スタンダード 青銅 24㎝ アラジャフユック出土 前3千年紀後半
『世界美術大全集東洋編16』は、アラジャ・ホユックの副葬品のなかで出色なのは、なんといっても「スタンダード」と呼ばれる青銅製品であろう。これらはいずれも基部に柄に差し込めるような形の茎が作り出されており、柄に差し込んで用いられた祭器であったと考えられる。
スタンダードには大きく分けると、動物像と円盤状のものの2つの種類が見られる。動物像としてはまれに驢馬も見られるが、牡牛と牡鹿が中心となっているという。
これは軍旗ではないが、台座に安置されるものではなく、棒状のものに差し込んで、上に掲げたり、持って移動したりするものだったことが、浮彫を見て納得できた。
スタンダード(牡鹿、部分) 前3千年紀後半 トルコ、アラジャ・ホユックB墓出土 青銅、銀 高52.5長26㎝ アンカラ文明博物館蔵 
『世界美術大全集東洋編16』は、本体は鋳造による青銅製であるが、この角を含めた頭部は薄い銀の板によって覆われている。胴には銀の象嵌による装飾が顕著に認められ、背中には直線が引かれ、胴の両側には二重の同心円文が7つずつ配され、頸の部分には3本からなるジグザグ文が巡らされている。さらに肩と腰の上部には、十字文が2対2組で配されるという。
これも棒に差し込んで掲げ、儀式に使われる特別なものだった。

しかしながら、現在スタンダードと呼ばれているものが、このように竿頭に取り付けられるものばかりではない。現代人が見ても旗とわかるものもある。

スタンダード 前2400-2200年頃 青銅製 シャハダード出土 イラン国立考古博物館蔵
『世界美術大全集東洋編16』は、ザクロス山脈の東端、ルート砂漠に接する位置にあるシャハダード遺跡は600hにもわたる範囲に建築址や墓地が広がっているが、これらは同一時期のものではなく、前3000年から前1600年ごろにかけての都市が各時代ごとに中心を移動させていったことによって、このような広がりを見せるに至ったのである。
青銅のスタンダード(軍旗)は、軍事的な指導者の存在を示唆しているという。
旗の部分には複数の神が描かれているようだ。また、旗を掲げる棒の先には鳥、おそらく猛禽が羽を広げて留まっていで、アナトリアでは神聖な動物が牡鹿だったが、この地では猛禽だったことを想像できる。

スタンダード 前3千年紀後半 貝殻、石灰岩 幅72㎝ マリ(テル・ハリリ)出土 ルーヴル美術館蔵
棒の先に牡牛像を付けて掲げる人物が登場する。軍旗(スタンダード)というものは、こんな風に掲げ持っていたことがわかる。
また、このような場面を象嵌で表した木製の板(あるいは箱状の一部)もスタンダードと呼ばれているのも紛らわしい。
このスタンダード(旗)持ちとそっくりなものが表された奉納板がアレッポ国立博物館に収蔵されている。というよりも、欠けた部分もそっくりで、同一のものとしか思えない。

戦勝の奉納板 前3千年紀末 アラバスター、貝殻、石 マリ出土 シリア国立博物館蔵
板状のスタンダードは奉納板らしい。
『シリア国立博物館』は、マリ遺跡の神殿の壁面は、しばし貝をこすり切ってつくった人物の像、青色のアラバスターの薄板などの小片をモザイクのように配した奉納板で飾られていた。この図は、周辺の都市を攻略し、捕虜を連れてマリ王の前で戦勝を報告するところと考えられているという。
下段に同じような牡牛の像がある。これも旗のように掲げて行進しているのだろう。

かなり以前に大英博物館展で見たウルのスタンダードは深く印象に残るものだった。軍旗とも言われていることが不思議で、より強く記憶に刻まれたのだろう。

ウルのスタンダード ウル第1王朝時代、前2500年頃 木、貝殻、赤色石灰岩、ラピスラズリ 高20.3幅48.3㎝ イラク、ウル王墓出土 大英博物館蔵
『世界美術大全集東洋編16』は、元来は細長い木製の箱で、その4つの側面を貝殻赤色石灰岩、ラピスラズリを材料に、ピッチで固定したモザイクで飾ったものであるという。
『大英博物館展図録』は、一説に軍旗とも説明され、また楽器だったのではないかとの推測もあるが、用途についてはなお不明である。マリからも類例が出土しているという。
中空のものなら持ち上げることはできただろうが、戦いの時に持ち運んだりしたら、すぐに壊れてしまいそうな作品だった。
どちらかというと、神殿の奉納板か、王宮の装飾品だったのでは?









※参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」 2000年 小学館
「大英博物館展図録」 1990年 日本放送協会 朝日新聞社
「世界の博物館18 シリア国立博物館」 増田精一・杉村棟 1979年 講談社
「NEWTONアーキオ4 メソポタミア」 編集主幹吉村作治 1998年 ニュートンプレス
「アナトリア文明博物館図録」 アンカラ、アナトリア文明博物館