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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/06/27

仏像台座の獅子1 中国篇


石造彫刻や鋳造の小金銅仏などを見ていると、台座に獅子が表されているものが多く、しかもそれぞれが個性的で、「一体何を考えてこんなものをつくったんやろ」と思うような作品もあって、いつかまとめてみたいと思っていた。ギリシア美術から仏教美術へと興味が移ってきたところで、獅子についてまとめてみよう。
2013年秋、大阪市立美術館で「北魏 石造仏教彫刻の展開」という特別展と「山口コレクション中国彫刻」という特別陳列が開催され、見どころが多かった。もう半年以上過ぎてしまったが、2つで1セットの図録にも、獅子はたくさん登場する。その中からみていくと、

菩薩半跏像 北斉、天保4年(553) 高さ41.4幅19.6奥行10.7㎝ 大阪市立美術館蔵山口コレクション
たてがみはあるが、獅子には見えない。向かい合う獅子は笑顔をこちらに向けているので、お互いを見ているわけでも、中央の博山炉を頭に載せている蓮華童子?を見ているわけでもない。左側の獅子に至っては、博山炉を指し示すかのように左足をあげている。 

道教三尊像 北周(6世紀中頃) 高さ16.7幅6.7奥行4.0㎝ 大阪市立美術館蔵山口コレクション
『山口コレクション』は、あご髭をたくわえ、拱手する坐像を主尊とする三尊像。いずれも高さのある冠をかぶっており、道教の尊像と考えられる。下方の獅子像は中央で顔を寄せ合い、一方が舌を出す点がユーモラスであるという。
仏教美術は道教にも影響を与えたが、中国古来のものとされる博山炉が獅子の間にはない。
獅子は衣をまとったような体で表され、制作地で飼われていた犬をモデルにしたわけでもなさそう。

仏三尊像碑 北斉(6世紀中頃) 石灰岩 高さ56.3幅32.3奥行16.2㎝
『アレクサンドロス大王と東西文明の交流展図録』は、下方に博山炉をかつぐ地神と2体の獅子を浮き彫りする。
仏坐像の衣の裾が台座の前に長く垂れ下がる様や、鬣(たてがみ)や尾が長くたなびく獅子の姿などには、東魏頃までの古い作風が示されている。これらのことからすると、東魏末期から北斉初期つまり6世紀半ば頃に造立されたと考えるのが穏当であろう。
下方に表現された博山炉をかつぐ地神の姿は、北魏から北斉にかけて、この種の造像に時折見られる図像である。地天などとも呼ばれ、仏を供養する意味合いが込められたものと思われるが、この図像の源流はギリシャ神話に登場する、天空ょ担う巨神アトラスとする説があるという。
左側の獅子はたてがみの先がカールしていて、右側の「たなぴく」たてがみとは表現が全く異なる。
どちらの獅子も博山炉を担ぐ地神に前肢をかけているが、口は阿吽になっているのかどうか、よくわからない。

如来三尊像 西魏、大統8年(542) 高さ23.5幅14.4奥行9.5㎝ 黄花石 大阪市立美術館蔵山口コレクション
『山口コレクション中国彫刻図録』(以下『山口コレクション』)は、宣字形台座に坐す如来像まやや装飾過多な懸裳や、四脚部左右正面に高浮彫された獅子像の見事に揃ったたてがみの表現など、きわめて精緻な彫刻技法をみせるという。
獅子らしい獅子である。左の獅子は、蓮華状の博山炉を守っているのか、右の獅子が顎の下が痒くてたまらずに後肢で掻いているのを、あきれて見ているのかな。

如来三尊像龕 北魏(6世紀前半) 高さ52.0㎝ 静岡、浜松美術館蔵
『北魏石造仏教彫刻の展開展図録』(以下『北魏』)は、台座左右の獅子像は前脚を揃えて頭を主尊に向かせ、その後方に脇侍立像が配されているという。
獅子は寝そべっているのだろうか。頭をあげて向かい合っているのだろうが、袖に噛みついているように見える。

如来三尊像 北魏、正始元年(504) 高さ109.0幅52.5㎝ 大阪市立美術館蔵山口コレクション 
『山口コレクション』は、宣字形台座の左右には一対の獅子像が大きく彫出されており、むしろ脇侍菩薩よりも存在感があるようだという。
頭の上に脇侍菩薩をのせているように見える獅子は、体を外側に向けてすわるが、頭部は正面を向いて威嚇しているようだ。これで阿吽になっているのだろうか。
小さな博山炉の下はやっぱり地神だろうか。

時代が上がると、獅子は外側を向くタイプとなるのだろうか。

如来坐像 北魏、太和18年(494) 高さ49.0幅29.8奥行20.2㎝ 大阪市立美術館蔵山口コレクション
体は外向きで、振り向いて向かい合う。口から細長いものが出ているのは舌かな。

いや、それ以前にも中央向きの獅子があった。

如来坐像 北魏、天安元年(466) 高さ28.7幅17.2奥行11.0㎝ 大阪市立美術館蔵山口コレクション
『山口コレクション』は、台座正面は博山炉を中央にし、その両脇に礼拝する供養人と大きな獅子が浮彫されるという。
獅子は尾を巻いてしゃがみ、向かい合う。ほぼ左右対称だが、頭部の表現が少し異なる。

塔台座 北魏、太平真君3年(442) 高さ9.8幅29.4㎝ 東京、台東区立書道博物館蔵
『北魏』は、上面には蓮華や一対の獅子像が、上からプレスされたように扁平なすがたで表されている。側面では、正面に博山炉を担ぐ力士像を中央にし、振り返り上方を向く姿勢の獅子像を大きく浮彫してる。獅子や供養人のすがたは大らかで、北魏・5世紀半ばの素朴な造形を今に伝えているという。
博山炉の横に小さく表されているのが供養人らしく、獅子の腰の上に乗っている。

おまけ
今回は展観されていなかったが、寝そべっている獅子もいる。

菩薩交脚像 北魏時代、5世紀末期 砂岩 48.0㎝
『中国の石仏 荘厳なる祈り展図録』は、宝冠に化仏を表し、交脚に坐す菩薩像。両肩を丸く覆う天衣、ガンダーラ起源の双獣胸飾など河西の初期造像や洛陽遷都以前の雲崗の交脚像の形式を基本とし、その作風から5世紀末期、陝西省以西の造像と思われるという。
獅子の姿はともかく、寝そべっている様子はリアルである。

また、二仏並坐像の台座にも獅子はいた。

二仏並坐像 石灰岩 32.1㎝ 隋、開皇15年(595) 大阪市立博物館蔵 
『中国の石仏 荘厳なる祈り展図録』 は、須弥座に一尊は拱手、一尊は右手に持物をとり、左手を膝上に伏せる二仏並坐像を表す。脇に両手で腹前に珠状の持物を捧げる比丘立像が立ち、須弥座正面には香炉と阿吽の獅子を大きく表す。上を仰ぎ見る相貌、外方を向いて立つ脇侍比丘が大らかな雰囲気を伝えるという。

獅子は正面を向き、はっきりと阿吽になっている。

                       →仏像台座の獅子2 中国の石窟篇
関連項目 獅子の登場するもの
獅子座を遡る
仏像台座の獅子4 クシャーン朝には獅子座と獣足
仏像台座の獅子3 古式金銅仏篇
前屈みの仏像の起源
X字状の天衣と瓔珞8  X字状の瓔珞は西方系、X字状の天衣は中国系
X字状の天衣と瓔珞7 南朝
X字状の天衣と瓔珞3 炳霊寺石窟
二仏並坐像は唐時代にまで

※参考文献
「大阪市立美術館 山口コレクション 中国彫刻図録」  齊藤龍一編 2013年 大阪市立美術館
「北魏 石造仏教彫刻の展開展図録」 齊藤龍一編 2013年 大阪市立美術館
「アレクサンドロス大王と東西文明の交流展図録」 2003年 NHK
「中国の石仏 荘厳なる祈り展図録」 1995年 大阪市立美術館