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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/04/18

マスジェデ・ジャーメ、南東礼拝室のドーミカル・ヴォールト


東入口から入ってすぐに列柱廊に迷い込む。ガイドのレザーさんの後を付いていくのだが、それぞれの小ドーム(ドーミカル・ヴォールト)の構成や焼成レンガが作り出す文様が面白く、ついつい遅れがちになってしまう。
とりあえず、写したドーミカル・ヴォールトと思われる箇所を、1931年にEric Schroederが作成した平面図に付けられた各天井の番号に従って、1999年に発行された『GANJNAMEH7』の平面図に赤字で記してみた。しかし、2つの平面図では、ドームが相違する箇所もある。60年の間に崩れたり、修復されたのかも知れない。

見た順番に

95 サファヴィー朝
4本の柱から平面的なペンデンティブが立ち上がり、それぞれ平レンガの継ぎ目で入れ子状の菱形をつくる。四面が接合して矩形となり、その四隅に、ラテルネンデッケの応用のように、三角形を足して明かり取りは八角形となっている。

96 時代不明 95と同じ
97 時代不明 95・96よりも複雑

61 セルジューク朝、12世紀
これまで見ていた硬質な平レンガとは質感も形も違う。こちらの方が古そう。上下で継ぎを変える、日本風に言えば長手積み。4本のリブを井桁に組み、さらに4本のリブを45°回転させてそれぞれの下端につないでいる。これもアーチ・ネットになるのかな。8本のリブが頂部で交差して八角形を作り、そこを明かり取りにしている。
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態は、8頂点3辺横断の基本的な形状であるという。

48 半球 セルジューク朝、12世紀
複雑に直線を折り曲げて、様々な幾何学文を作りながら頂部を10点星とする凝ったつくり。

47 ムカルナス・ドーム セルジューク朝、12世紀
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態の図8(62)とこの写真はよく似ているが、見学した順路からいうと47が妥当。どちらもムカルナスのドームで、マスジェデ・ジャーメにはこの2つしかない。
ここから4本の柱で支えられたほぼ正方形平面に、尖頭アーチの片側から出た三角状の面が8つで八角形をつくり、その中にムカルナスで8点星を2段、頂部は八角形の明かり取りとする。内側の8点星のムカルナスから、段をつくらずに八角形に移行させていくときに出来た膨らみがなんともいえない。

46 クロイスター・ヴォールト イル・ハーン朝、14世紀
頂部は手裏剣のような4点星。それぞれの先から直線が2辺に伸びて交差し、12面ができている。

45 クロイスター・ヴォールト イル・ハーン朝、14世紀
手裏剣のような4点星の外側に8点星が2つ。

40 セルジューク朝、12世紀
六角形の中央に小さな三角形を置き、その輪郭から伸びる線で平たい六角形をつくる。

30 セルジューク朝、12世紀
4本の柱の上に造られた4つの尖頭アーチの各頂点から四角形をつくり、4隅もレンガ積みの方向を変えて矩形とする。その中にも先の尖った十字を置いている。
レンガを積む方向を変えるだけでこんな文様ができあがる。
尖頭アーチよりも明るい色のレンガなので、イラン・イラク戦争で被弾して崩れ、修復したものかも。

31 セルジューク朝、12世紀
このドームも色が違う。
矩形の明かり取りは8点星に囲まれ、8点星の4頂点からそれぞれのリブが延長して三角形ができる。尖頭アーチの頂点で積み方の方向が変わるので、三角の両隣にはそれぞれ六角形があるようにも見える。
実際は反対の順にレンガを積み重ねていくのだが。

32 セルジューク朝、12世紀
対面する尖頭アーチの角に2頂点、別の向かい合う尖頭アーチに2面をもってきて六角形に。その内側に6点星、その中に六角形の明かり取りができている。

23 12世紀からイル・ハーン朝(13-15世紀)
4本の柱から平面的な三角形のペンデンティブになるが、その内側にレンガの向きを変えて三角形をつくり、各尖頭アーチの頂点に角を置く矩形。その中心にラテルネンデッケ風に三角を持ち送る。平たい。

12 セルジューク朝、12世紀 
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態では卍文とみている。
網代に組み合わせた長方形の中にラテルネンデッケを一段だけ嵌め込んだような。

3 セルジューク朝、12世紀
30のドーミカル・ヴォールト(セルジューク朝、12世紀)と同じく、四角形をつくり、4隅もレンガ積みの方向を変えて矩形とする。その中はラテルネンデッケ状になっている。

49 明かり取りがある。
あまり古くは見えないが、ヴォールティングの諸形態では12世紀(セルジューク朝)としている。
その下より西を見る。
50・51のドーミカル・ヴォールトがかろうじて写っているが詳細はわからない。
ヴォールティングの諸形態ではどちらも12世紀建立とされている。
4人の向こうには5255の連続するヴォールトのある南イーワーン東礼拝室。
平面図ではどれも同じ4本のリブが放射状に架かるドームだが、古いままのようなのでセルジューク朝のものかも。
ヴォールティングの諸形態ではサファヴィー朝とされている。

33 時代不明
尖頭アーチの頂点から出た線が十字に交差し、その間に入れ子の菱形が平レンガを並べることによってできている。
33の小ドーム下より眺めた37までの小ドーム群。その先には38のドーミカル・ヴォールトがある。
修復されたか、後世に造られたようにも思える架構部の続く礼拝室だが、その天井にもそれぞれに異なったレンガ積みのドーミカル・ヴォールトとなっている。
34 時代不明
平面的な入れ子の菱形をなすペンデンティブの間に、網代に組み合わせた長方形があり、その中も長方形のように見える。
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態では卍文としている。
35 時代不明
ラテルネンデッケをレンガの向きで表す。

27(または25) サファヴィー朝 井桁
四方に窓が3つずつあり、空中に浮かんだような天井で、アリー・カプー宮殿最上階の天井に似た構造。
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態は、井桁状の中に交差スクインチ・アーチを入れ子に用いた複雑な形状という。

ヴォールティングの諸形態では、10(壁際)は4基点6頂点2辺横断、19は4基点16頂点5辺横断という、共にサファヴィー朝期。
29 サファヴィー朝期
ヴォールティングの諸形態では、4基点12頂点4辺横断とする。
38 サファヴィー朝期
ヴォールティングの諸形態では、4基点16頂点5辺横断とする。19と同じ。


   マスジェデ・ジャーメの変遷← →マスジェデ・ジャーメ 南ドーム室


関連項目
マスジェデ・ジャーメ 北礼拝室のドーミカル・ヴォールト


参考サイト
金沢大学学術情報リポジトリより 深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態 1998年

※参考文献
SD選書169「ペルシア建築」 A.U.ポープ 石井昭訳 1981年 鹿島出版会
「GANJNAMEH7 CONREGATIONAL MOSQUES」 1999年